Vol.1
娘「今日暇じゃね?」
父「暇だね。全然お客さん来ないね」
「そーいや、今日一緒に観た映画どうだった?」
「『哭悲(こくひ)/ THE SADNESS』だっけ?」
「なんか、Filmarksとかでめちゃくちゃグロいとかトラウマ級とか色々言われてたけど、案外見れちゃったんだよね〜。確かにグロいんだけどさ…」
「観終わった後焼肉食べたくなった(笑)」
「それな(笑)いや、あれ観て焼肉食べたいとかイカれてんだろ(笑)」
「新鮮なお肉とか血を見続けたら、やっぱ食べたくなるやん?(笑)」
「ちゃんとエログロホラーなんだけど、結構社会的というかただのホラーじゃない気がした」
「そうだよね。感染すると性欲や暴力性とかあらゆる欲望が抑制できなくなっちゃうウイルスって設定なんだけど、電車の中でヒロインに絡んでくるキモいおじさんとか、ヒロインが上着脱いで肩とか出した時の、警備員さん?とかの視線とかさ、感染してるからなのか、未感染だけど単純に性的な対象として女性を見てるのかの境界が結構曖昧なのね」
「あのおじさんはマジでキモい(笑)」
「女性が日常生活の中で感じてる、自分を性的な対象として眺める男性的な目線への嫌悪感とか恐怖感とかが映画のあちこちで描かれてて、そういうものに対する怒りみたいなものが、ヒロインが消火器使って感染したおじさんの頭を殴ってくっちゃくちゃに叩き潰しちゃうシーンで代弁されてる気がするよね。」
「あそこはマジスカッとしたわ(笑)でも、あのシーンのヒロインってまだ感染してないんだけど、感染してる人たちと同じくらいに暴力的なんだよね。元々自分が持ってる暴力性がそのまま出ちゃってるというか」
「そこは結構紙一重というか、特に感染した人も、理性そのものは失ってないんだよね。だから、抑制できな欲望とひどい行動に、多分心を痛めてて涙流したりしてるんだよね」
「そう考えると色々と考えさせられるホラーだわ。ちなみに、この映画の監督、これが長編初監督らしいよ」
「マジで??初監督でこのクオリティーはヤバいね!?」
「これ台湾映画なんだけど、台湾映画掘ってみたら結構アツいかも」
「ところで、今年もあとちょっとだけど、今年1年で何本ぐらい映画見たん?」
「150本」
「そんなに観たん??今どきそんな女子大生珍しいやろ(笑)」
「いや〜我が家の映画視聴環境に感謝だわ(笑)」
「ネトフリ、Disny+、アマプラ、U -NEXT、サブスク全部観れるもんな。マジ感謝した方がいいよ(笑)」
「ちなみに、今年見た映画で新作旧作問わず、パパのベスト3挙げるとしたら何?」
「3本かぁ…公開は去年だったと思うけど今年初めに見た『すばらしき世界』よかったね」
「役所広司が出てる、あの『ゆれる』の監督のやつだよね」
「そうそう西川美和監督」
「『ゆれる』は結構好きだわ」
「いいよね。俺あの監督の人間の描き方というか、人間に対する認識の仕方が好きというか。善人とか悪人とか単純に割り切れない、良いところも悪いところも、強さも弱さもどっちも同居しているのが人間だよねっていう考え方に基づいて描かれてる感じが。あととにかく役所広司の演技がもう圧巻なのよ。九州のヤクザで殺しをやって人生の大半刑務所で過ごして、出所後に社会復帰を目指そうとする男の人を演じてるんだけど、役所広司というか、そういう人のドキュメンタリー見てるって思うぐらいリアルで。」
「役所広司って本当、役の幅が広いよね。『CUER』とか『渇き。』とかもよい」
父「それと、テレビディレクターの役で仲野太賀出てるんだけど、いい役やってるんだよね」
「今の日本映画で、主役とかメイン役じゃないけど、結構大事な脇役とかをとりあえず仲野太賀にやらしておけば間違いないみたいなところあるよね(笑)長澤まさみの『MOTHER』での役とかもよかったよね」
「じゃあ、そっちのベスト3第3位は何よ」
「うーん…」
「あ、お客さん来た!」
「いらっしゃいませ〜」
「ご注文は…
はい、ブラックポーク大盛り一つ〜」